午後の酩酊

I need to be myself.

0304

 

「緑の色が違う」と、誰かが言っていたことを思い出した。

 

鼻孔を通る空気はきんと尖っている。

上着を着ても震えるほどの寒さとは違い、冬の日差しは意外にも柔らかい。少し霞んだ色合いの光は、視界に広がる芝生の緑をつややかに照らしていた。気まぐれに手入れされた草は、伸び続けることもなければ、枯れる素振りさえ見せない。それは雨が多く、年中涼しいこの国特有の気候の賜物だろうか。

 

こちらへ来て約一年が経った。

変わったものは数多くあれど、この芝生だけは毎日同じ姿で私の視界に飛び込んでくる。だけどそれは同じように見えるだけだといつしか気付いた。目に見えるものも、見えないものも、全てが少しずつ動いているのだとしたら「変わらなければならない」と「戻らなければならない」の、一体どちらが正しいのだろう。

きっと私は選ばれた人になりたかった。

劣等感を抱えることなく、自分は特別だと疑いなく思えるような。

けれども私は漫画の主人公のように、何か特別な能力を持っているわけでもなければ、苦境に耐えうる芯の強さすら持ち合わせていない。ならば選ばれるのを待つことは、網で水を掬うように無意味で愚鈍なことだと思った。ずっと夢をみながら生きられれば、どれほど楽なのだろうか。

 

春が待ち遠しい。